小説「ハケンアニメ!」構成分析(後編)

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本日は『ハケンアニメ!』構成分析後編!

構成のやり方が知りたい人は最後まで読みましょう。

■第2章 女王様と風見鶏

斎藤瞳という女性アニメ監督と行城プロデューサーのお話。

簡単に展開を説明すると、

・斎藤瞳は家が貧乏で通常の楽しみがなかったが、大学生のころ『バタフライ』というアニメを見てアニメ制作者を目指すことになる
・斎藤瞳は王子千晴とは違い優等生タイプ。「サウンドバック 奏の石」の監督をやっているがうまくいかないことも多い
・作品制作が進むにつれて行城プロデューサーへの信頼感が上がっていく

という感じですかね。

構成でうまいのは斎藤瞳も行城プロデューサーも第1章でチョイ役で出ているんですよね。

斎藤瞳はやり手のアニメ監督として登場。制作最中の小汚い状態で出てくる。好感度高い感じですね。

行城プロデューサーは若干いやな奴として登場。どうでもいい人の名前は覚えないというわかりやすい反感を食らいやすいタイプ。

こぎれいでオシャレ、というプラスの要素を持たせつつ読者の反感を買うというよく練られた人物設定ですね。

第2章が始まると反転斎藤瞳の印象を落としていきます。

うまく演技ができない声優にきついことを言ったら帰ってしまう。

意味がないシナリオ会議で時間をとられてしまう。

行城プロデューサーのやり方が商業主義的で反感を持ってしまう

半分くらいかわいそうだなと思わせ、半分くらいほかの人の苦労もわかんないの?行城プロデューサーそんなに間違ってないじゃん、とちゃんと思わせる演出。

そして小さな事件が起こります。

修羅場が終わったところで版権絵がちゃんとできていないことが判明するわけです。

たまたま第3章の主人公の並澤和奈にお願いすることができて、事なきを得るわけですが。

これをきっかけに他の人の力で自分の仕事が成り立っていることに気が付き始めます。

基本第2章は斎藤瞳の成長物語なんですね。

優等生だけど自分の考えに凝り固まって柔軟さがない。固いのは強さじゃないですよね。竹のようにしなやかな方が強いことが多いです。

子供のころから貧乏で努力は得意だけどコミュニケーションが苦手で、それを克服していきます。

序盤声優の女の子たちが少し嫌なキャラクターとして描かれています。

その彼女たちとコミュニケーションをとることで彼女たちの良さを見出し、自分自身も成長していく。

しかもそのヒントをくれるのが第1章の王子千晴であると。

いやあ、よくできていますね。

この声優の女の子たちチョイ役で第1章から出てきていますからね、ちゃんと嫌な感じの役として。

第1章でまいた種を2章で効果的に刈り取っています。

■行城プロデューサーについて

商業主義の嫌な人風にしておいて、実際は作品やそれにかかわる人を思いやるすごくいい人、という展開。

私はプロデューサーもやったことがあるので、彼の立場ってよくわかるんですよ。

クリエーターに制作作業だけやっていてほしいのはやまやまなんです。

それでも多くの人に興味を持ってもらえなければ、良くても埋もれていってしまう作品はたくさんあります。

できるだけたくさん、世間に対してのフックを用意していかないといけないのです。

子供に口うるさいオカンのような感じですね。

そして最終的に斎藤瞳が会社を辞めるということに関して、すべての人に良い結果が出るように立ち回る。

どこかのお笑い会社が辞めた人の再出発をみんなで袋叩きにしていましたが、そんなんじゃダメですよね。

会社を辞めたとしても同じ業界でやっていく仲間なんですから。仲良くしておくに越したことはないです。

何気に第2章のクライマックスはここだったかと思います。

■第3章 軍隊アリと公務員

第3章は実質前半と後半にわかれる感じですね。

前半は原画家である並澤和奈が公務員の宗森周平を理解していくお話。

後半は河永祭りに「サバク」の船を出すために奮闘するお話。

○前半の方の展開

・並澤和奈は東京出身だけど地元やリアルな友達にあんまり価値を見いだせない、新潟でアニメーターをやっている
・町おこしのスタンプラリーを手伝うことになり担当の宗森周平と接するが、自分の価値観にないものだらけの宗森周平に反発する
・宗森周平の誠実さ、リアルな付き合いの良さに気が付き始める
・スタンプラリーが満足する結果となり達成感を感じる

という感じ。
成長物語というところでは第2章に通じるものがあるかと思います。

東京のフィギュア制作会社の社員と仲良くなって東京でデートするんですが、意午後地の悪さを感じることが起こります。

しかもその最中に版権絵をかくために呼び出される!これが2章の話とつながっています。

神原画士、と言われているのですが自分自身は作業員としての誇りがあり、そこからあまり出る感じがありません。

それはそれでよいのですが、成長を阻害している要因にもなっていますね。

オタク的なものが好きで、リアル的なつながりが苦手ということが宗森周平と接することで浮き彫りになります。

最初は避けているだけなのですが、徐々に受け入れていくことで新たな発見をしていきます。

そしてそれが成長につながる。

絵にかいたような成長物語ですよね。

私なんかは2次元も3次元も女の子が好きなのでよくわかります。

友達で休みの日はガ○ダムをみて、ゲームはガ○ダムのゲームをやって、友達と会うとガ○ダムの話をしている、という子がいます。

それを否定するものではないですが、楽しいことはもっとたくあんありますよ!

全然興味がない雑貨屋に 女の子に 連れて行かれるのを苦痛と感じるのか、そこで新たな発見をするのかでは人生の楽しみ方が全然変わってきます。

自分の楽しみに関しては、あれもこれもでいいのです。

○後半の方の展開

・宗森周平は河永祭りに「サバク」の船を出したい。並澤和奈も協力したいと思うようになっている。
・伝統を重んじる地元の人たちが反対している
・1,2,3章に出ている人たちがオールスターで活躍して、河永祭りに参加して大団円を迎える

とこれだけ書くと簡単ですが、いくつもの伏線を回収しています。

第2章のところで「サバク」の舞台である自治体との協力を嫌がっています。

読んでいる人は大方その意見に賛成しているはず。でも宗森周平の思いや人柄をしって、その上での提案だということを知った読者は考えが変わっていると思います。

新潟県選永市は最初出てきたときは単純に並澤和奈の勤めているアニメ会社がある場所として出てきます。

そしてその後「サバク」の舞台であることれ、さらに王子千晴の故郷であることが明かされます。

で、唯一賛成してくれた副理事長が王子千晴の父親で、鍾乳洞の券売機のおばちゃんが王子千晴の母親で、宗森周平が助言を受けていた先輩は王子千晴であるわけです。

資金面で困っていたところ斎藤瞳に相談すると滞っていたトウケイ動画とのやり取りが動き始めます。

行城プロデューサーが資金繰りのためのアイディアと、その実行をしてくれます。

そして舟の着色をするのにもともと行為を持ってきた逢里と、美人だから気おくれしていた鞠野カエデが手伝ってくれるます。

そして1,2章ででてきていたマーメードナースの子たちも協力してくれると。

全編通して無駄な主要登場人物が全くいないですね。

で、みんな活躍すると。カタルシス半端ないです。

これ最後がちゃんとこうなるって考えて書き始めていないとできないですよね。

本当に素晴らしい構成だと思います。

■最終章 この世はサーカス

最終章はエピローグ扱いですね。

それぞれの章の後日談。作成していたアニメの結果などが展開されています。

全部の伏線が回収されているので、あとは気持ちがいいだけのボーナスステージです。

それでも第1章の主人公有科香屋子への「なんなら、俺、結婚してあげてもいいけど」という王子千晴の発言はプロポーズだった、というところを明らかにして終わらせるところは本当にきれいな終わり方ですね。

これにも伏線があって、王子千晴は第1章で名前は出てくるんですがセリフがなかなか出てこないんですよ。

24pで初めて「大きい女の人だね、有科さんて」という出てきます。

ためにためてやっと出てきたセリフが「大きい女の人だね、有科さんて」。なので読者は覚えているんですよ。

あとこの会話の最後にも「大きい女の人だね、有科さんて」というセリフをもう一度言っています。

後他にも「有科さんは大きな女の人だよ。俺と組めるなんて相当だ。」というものも出てきます。

まあ最後のは物理的な大きさではなくて人として、ということなんですが、おそらく王子千晴は物理的にも人間としても大きな女の人が好きで有科香屋子に好意を持っている、という落ちなわけですね。

あちこちにヒントは出されていて、最後にそれとなく謎解きがされているといオシャレなラストなわけです。

■全体を構成するうえでの工夫

この作品は斯く登場人物の印象を必ず下げてから上げています。

これがキャラクターの魅力を上げる基本ですよね。

最初から上がっている人が成功してもつまらないですし、下げっぱなしだと感じが悪いです。

あとは上げている人を複数個所で活躍させています。

マーメードナースの子たちなんて第1章で感じ悪く出しておいて、第2章で好感度を上げて、第3章では大活躍ですよ。

それぞれの章で読者の好感度を上げているキャラクターを最後にそれぞれ活躍させているんですから。

格闘技トーナメントを開いているようなものです。

キャラクターを立てて、その力を信頼する、という作成方法もいいですが「ハケンアニメ!」のようにちゃんとした構成を設定して展開するつくり方もいいですよね。

私もこんな感じで作ってみたい!

辻村深月さんの別の作品も読んでみたくなりました。

まずは作中に出てくるチヨダ先生の話が読みたいですね。「スロウハイツの神様」なのかな。

今は応用情報の勉強が忙しいので、それがひと段落したらよんでみたいと思います。

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